いよいよ10月1日のインボイス制度開始を控え多くの事業者が対応に追われている昨今ですが、今まで免税事業者としてやってきたフリーランスの方の中には「猶予期間もあるみたいだし、ひとまず様子見しようかな」なんていう方も多いのではないでしょうか。

本記事では、そんなフリーランスコンサルタントの方にご参考にして頂くために、具体的な金額例を用いて、様々なパターンに対して「インボイス対応しない場合」と「インボイス対応した場合」にフリーランスの収入にどれだけ影響してくるのか計算したものをご紹介したいと思います。

最初にお断りしておきますが本記事は「インボイス制度とは何か」や「どのようにインボイス対応すればよいのか」の解説記事ではございませんのでご了承ください(その辺の話については国税庁や会計サービスのサイト等をご参照ください)。

また現在既に「課税事業者」である方についてはインボイス対応はほぼ必須であるため、現在「免税事業者」(原則として、基準期間(個人事業主の場合は前々年)における課税売上高が1,000万円以下)であるフリーランスコンサルタントの方が対象の記事となります。

結論としては、いずれのパターンにおいてもインボイス対応した方が得、となりました。これは当然と言えば当然なのかもしれません。というのも、インボイス制度とは有り体に言ってしまえば中小事業者が今まで受けられていた免税制度(益税)の事実上の廃止であり、「免税事業者」が存続するのが困難となるよう制度設計されているものだからです。

インボイス制度開始後のパターン分け

具体的な金額例として、現状「フリーランスの報酬額=80万円/月」であるとします。図1のように、フリーランスは8万円の益税を得ています。

図1. 現状(インボイス制度開始前)の取引状況

インボイス制度が開始されれば、フリーランスがインボイス対応しようがしまいが新たに国が徴収する消費税は発生するため(※1)、いずれにしても今までの取引条件の見直し(金額調整する/しない)は避けられません。本記事では「増額分を誰が負担するのか」で以下の3パターンに場合分けしました。

  • パターンA:クライアントが全額負担
  • パターンB:フリーランスとクライアントとで折半
  • パターンC:フリーランスが全額負担

※1. 「新たに発生する消費税」という書き方をしていますが、正確には「今まで納税が免除されていた分の消費税(=益税)」です。

「経過措置」について

というわけで、早速各パターンの計算結果をお見せしたいところなのですが・・・、その前に最低限の前提知識として「経過措置」に関する説明だけ先にさせてください。

「経過措置」と一言で言っても、実は大きく二種類あります。

免税事業者からの仕入れに係る経過措置

免税事業者から仕入れを行う事業者が受けられる税額控除措置です。期間等は次の通りです。

期間控除割合
2023年10月1日から2026年9月30日まで仕入税額相当額の 80%
2026年10月1日から2029年9月30日まで仕入税額相当額の 50%

本記事におけるこの措置の対象は「クライアント」となります。

小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置〈2割特例〉

現在免税事業者であり、インボイス対応するために課税事業者となった場合に受けられる税額控除措置であり、一般に「2割特例」と呼ばれているものです。期間等は次の通りです。

期間 控除割合
2023年10月1日から2026年9月30日まで 課税売上に係る消費税相当額の 80%

本記事におけるこの措置の対象は「フリーランスコンサルタント」の方となります。

それぞれ、細かい適用条件等がありますので、より詳しくは国税庁QA表の問110~114をご参照ください。

以降、本記事では以下のように時期区分し、それぞれ緑、黄、赤で色分けいたします。

図2. 経過措置

インボイス対応しない場合

まずフリーランスがインボイス対応しない場合について各パターンを見ていきます。

現状の報酬額(=80万円/月)のままであればクライアント側のみに負担が発生するため、クライアントに報酬額を調整される可能性があります。本記事のパターン分けと照合すると以下のような対応関係になります。

パターンA:クライアントが全額負担

上記の通り「報酬額調整なし」がパターンAになります。

図3. インボイス対応しない場合のパターンA

パターンB:フリーランスとクライアントとで折半

フリーランスとクライアントとで折半するパターンですが、実は負担を厳密にフィフティ・フィフティにしようとすると計算がかなり厄介になります。ひとまず、結果は次の通りになります。

図4. インボイス対応しない場合のパターンB

以下、補足説明となりますので計算過程に興味がない方は読み飛ばして構いません。

何がそんなに複雑なのか、について要点だけご説明いたします。

例として「経過措置期間①」を考えてみましょう。この場合クライアントが仕入税のうち20%、つまり8×0.2=1.6万円を新たに納税することになるわけですから、これを単純に0.8万ずつフリーランスとクライアントとで分担すればいいだろう、と考えるのが自然です。

しかし、そのように報酬額を調整(減額)すると、それに応じて仕入税の金額も変わってしまうため、出発点としていた「1.6万円増」という前提が崩れる、という厄介なことになってしまうのです。

パターンC:フリーランスが全額負担

このパターンもまた計算はややこしいのですが、結果だけお見せします。

図5. インボイス対応しない場合のパターンC

インボイス対応した場合

次に、インボイス対応した場合です。この場合、免税事業者だったフリーランスは強制的に課税事業者とならなければなりません。これに応じてフリーランスが受けられる控除措置は「2割特例」の3年間(経過措置期間①)のみです。「経過措置期間②」の3年間は控除措置は受けられず、つまり「完全移行後」と区別なし、となります。

現状の報酬額(=80万円/月)のままであれば、今度はフリーランス側のみに負担が発生することとなるため、フリーランスからクライアントへ報酬額の増額を相談することとなるでしょう。パターン分けとの対応関係は以下の通りです(「インボイス対応しない場合」と区別するため、パターンをa、b、cと小文字にしました)。

パターンa:クライアントが全額負担

これまた計算は厄介なのですが、結果のみにご注目ください。

図6. インボイス対応した場合のパターンa

クライアント側の負担は、「インボイス対応しない場合のパターンA」(図3)と比較すると「経過措置期間①」では小さく(1.48<1.6)、「経過措置期間②」では大きく(8.0>4.0)、「完全移行後」では等しく(8.0=8.0)なりました。

パターンb:フリーランスとクライアントとで折半

図7. インボイス対応した場合のパターンb

「インボイス対応しない場合のパターンB」(図4)と比較すると、「経過措置期間①」では得(0.77<0.83)、「経過措置期間②」では損(4.00>2.05)、「完全移行後」では等しく(4.00=4.00)なります(フリーランス、クライアント双方とも)。

パターンc:フリーランスが全額負担

現状の報酬額(=80万円/月)のままであれば、以下のようにフリーランス側のみに負担が発生します。

図8. インボイス対応した場合のパターンc

パターンA(a)、B(b)と同様に、「インボイス対応しない場合のパターンC」(図5)と比較すると「経過措置期間①」では得(1.6<1.73)、「経過措置期間②」では損(8.0>4.19)、「完全移行後」では等しく(8.0=8.0)なりました。

まとめと「簡易課税制度」について

ここまで見てきたように、いずれのパターンにおいても、「経過措置期間①」ではインボイス対応した方が得、「経過措置期間②」ではインボイス対応しない方が得、「完全移行後」では差異なし、というややこしい結果となってしまいました。

しかし、これまでの計算では「簡易課税制度」(※2)を考慮しておりません。インボイス対応し免税事業者から課税事業者になったとしても、「簡易課税制度」を選択すればコンサルタントの場合50%の控除が受けられます。

簡易課税の適用条件は原則として「基準期間における課税売上高が5,000万円以下」であるため、よほど高収入なフリーランスコンサルタントでなければ選択できます。

※2. 課税事業者が消費税納税額を算出する方式は大きく2種類あり、それが「原則課税」と「簡易課税」です。控除を受けられる仕入税額の算出方法の違いであり、「原則課税」では細かく仕入税額を算出し申告しなければなりませんが、「簡易課税」であれば売上に係る消費税額に「みなし仕入率」(事業区分ごとに定められている)を乗じた金額を仕入税額として控除を受けられます。より詳しくは国税庁参照。

簡易課税制度を選択した場合の計算結果だけ以下に載せておきます。経過措置期間①(緑)については「2割特例」の80%控除の方が大きいためこれを適用し、経過措置期間②(黄)と完全移行後(赤)に「簡易課税制度」による50%控除を適用しています。

パターンa’:クライアントが全額負担

図9. インボイス対応し、かつ「簡易課税制度」選択した場合のパターンa’

パターンb’:フリーランスとクライアントとで折半

図10. インボイス対応し、かつ「簡易課税制度」選択した場合のパターンb’

パターンc’:フリーランスが全額負担

図11. インボイス対応し、かつ「簡易課税制度」選択した場合のパターンc’

これまでの結果を一覧にまとめました。念のため繰り返しておきますが、現状「フリーランスの報酬額=80万円/月」という例の場合の計算結果です。

したがって、簡易課税制度選択という前提を加えれば、結局全パターン、全期間において、インボイス対応した方が得をする、というスッキリした結論となりました。

記事冒頭で述べた通り、インボイス制度とは有り体に言ってしまえば、中小事業者が今まで受けられた免税制度(益税)の事実上の廃止であるため、将来的には「免税事業者」という人種が生き残っていくことは難しいと言わざるを得ないのでしょう。実際、インボイス制度を導入したヨーロッパ諸国では免税事業者は淘汰されてしまったそうです(→こちらのサイト参照。ちなみに簡易課税制度が廃止される可能性についても触れられていますね・・・)。

よって遅かれ早かれインボイス対応は必要となる、そして対応は早ければ早いほど得をできる可能性が高い、と言ってよいのではないでしょうか。

本記事では現在アサイン中の案件を継続するという前提の中でインボイス対応するかしないかがフリーランスコンサルタントの収支にどれぐらい影響するのかを計算してきました。

ですが、収入を上げるには何よりもまず、より高額な案件を受注することというのは言わずもがなでしょう。WithConsulでは多数の高額案件を取り扱っておりますので、ぜひご登録、ご活用ください。

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