フリーランスのコンサルタントの中には、コンサルティングファーム所属時代に培ったノウハウを活かしてコンサルティングワークを行おうと思っている方が多くいると思います。しかし、すべてのノウハウを無条件で使ってよいわけではありません。この記事では、どこまで前職の知識やフレームワークなどのメソッドを活用してよいのか、問題となり報道された具体例を挙げながらお伝えしていきます。

コンサルタントが前職のノウハウを活用する前に確認しておくべきポイントのうち、特に気を付けるべきポイントは知的財産権と不正競争防止法です。

もちろん、その他にもインサイダー取引、個人情報保護など他にも気を付けるべき視点は多くありますが、ここでは、特にコンサルティング業界における特有の視点として、知的財産権と不正競争防止法についてご説明いたします。

企業の知的財産権を犯さないために

活用するメソッドは企業独自のものか

企業独自のもので特許申請がされている

まず考慮すべきは、活用するメソッドが企業独自のものであり、特許申請がされているものであるかという点です。

自社以外では目にしたことのないフレームワークやメソドロジーは、特許の取得がされている場合があります。特許庁の公式Webサイトからリンクが貼られている「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」の検索機能を使うことで、そのメソッドが特許申請されているかどうかを確認することができます。

特許が取得されているものをその企業以外の人間が使うことは産業財産を侵害することになりますので、取得が確認されたメソッドは使わないようにしましょう。

企業独自のもので特許申請がされていない

前職の企業以外では目にしたことがないが、特許申請はされていなかったメソッドについては、可能であればその企業に現在所属している上司や同僚に連絡をして、確認することが望ましいです。

後々問題にならないためにグレーな物事は先出しで質問をしておくクセを付けておくことは、知的生産活動に携わるフリーランスとしての生存戦略でもあります。ぜひご自身の伝手を辿って確認するようにしてください。

活用するメソッドは広く知られたものか

コンサルティングに関する本に書かれているような、広く知られたメソッドについて。例えば「金のなる木」などのワードで有名なプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)は、ボストン・コンサルティング・グループによるフレームワークです。

このフレームワークはコンサルティングについての書籍や記事でも広く用いられているため、ボストン・コンサルティング・グループに確認を取らずともコンサルティングワークにおいて個々人が用いてよいものです。

ひとつの目安として、Google等で検索をして多数の記事がヒットしたメソッドは、公知のものとして用いてよいと判断しましょう。しかし、先述のとおりグレーだと感じた物事は先出しで質問をしておくのが肝要です。

不正競争防止法違反を犯さないために

不正競争防止法とは

不正競争防止法とは、事業者間で公正な競争が実現することを目指す法律で、事業者の営業上の利益が侵害されうる不正競争の防止を図る目的があります。

時代の移り変わりのなかで事業者の利益が発生・侵害されるケースが多角化するにつれ、不正競争防止法は改正を重ねてきました。中でもこの記事では、企業の営業秘密を守るための改正不正競争防止法について触れていきます。

この改正不正競争防止法では、「不正な利益を得るために第三者に営業秘密を開示する行為」や「営業秘密を記録した媒体を横領する行為」は営業秘密侵害罪となり、刑事罰が科されることとなります。

この「営業秘密」というものは、クライアント企業の深い情報を取得した上で知的生産活動を行うコンサルタントにとって、極めて慎重に扱うべきものであることは言うまでもありません。

書類上の文言の確認

あなたが退職したコンサルティングファームと交わした書類、具体的には就業規則や就職時・退職時に記入した誓約書等の中に、不正競争に関連する文章がないかを確認しましょう。

例えば同業への営業を禁止する旨は以下のようなポイントが記載されている契約書が一般的です。

  • 契約中、契約終了後〇年間は、文書による承諾なく、業務を通じて知った顧客に対して、営業行為をおこなってはならない
  • 双方の人員の勧誘、 業務の提示、雇用または契約をしてはならない
  • 双方が雇用し、直接接触する個人または企業を含む
  • 一般誌の広告、職業安定所による紹介またはインターネット掲示等の一般的・間接的な勧誘に対しては適用しない

前職のコンサルティングファームとあなたが交わした文書を、改めて確認してみてください。

さて、実際に改正不正競争防止法違反の容疑でコンサルタントが逮捕されたケースがあります。また、有名企業同士での不正競争防止法違反をめぐる訴訟事例もあります。コンサルティング業界内外の事例について、具体的に見ていきましょう。

コンサルティング業界での不正競争防止法違反 事例

2018年3月、フューチャーアーキテクトからベイカレント・コンサルティングに転職した39歳の男性が、不正競争防止法違反の容疑で逮捕されています。

男性はフューチャーアーキテクト所属時代に自身が作成した提案書や見積書、従業員名簿を複製し持ち出したとされています。データの流出に気づいたフューチャーアーキテクトは、この男性とベイカレント・コンサルティングに損害賠償を求め訴訟を起こしています。

男性は「自分で作成した資料なので問題ないと思った」と容疑を否認していましたが、ここで問題となるのは資料の作成者ではありません。この資料を取得する行為が、先述の「第三者に営業秘密を開示する行為」および「営業秘密を記録した媒体を横領する行為」にあたると考えられるのです。

不正競争防止法という法律の知識の有無に関わらず、前職の資料の持ち出しは何らかの法律に抵触するであろうことは、大半の方は察しがつくと思います。しかし、自身の知的生産活動が元の企業の営業秘密を侵害していないかどうか、頭の片隅に置いて時折確認するようにしましょう。

コンサルティング業界以外での不正競争防止法違反 事例

ソフトバンク株式会社が楽天モバイル株式会社および楽天モバイル元社員に対し、退職時に持ち出した営業秘密の利用停止および廃棄等、ならびに約1,000億円の損害賠償請求権の一部として10億円の支払い等を求める民事訴訟を東京地方裁判所へ提起しました。

楽天モバイルの元社員が持ち出した営業秘密とは、ソフトバンク勤務時に取得していた5Gに関連する機密情報とのことです。楽天モバイル元社員は、2021年1月12日に不正競争防止法違反の容疑で警視庁に逮捕され、同年2月2日に同法違反の容疑で起訴されています。

ソフトバンク株式会社は、営業秘密として証拠保全を求めていた電子ファイルが楽天モバイルが業務上利用するサーバー内に保存され、楽天モバイル社員に対して開示されていた事実を確認したとのこと。楽天モバイルは、裁判所およびソフトバンク株式会社に提出後、これらの電子ファイルを全て廃棄したと主張しているそうです。

ソフトバンク株式会社と楽天モバイル株式会社は以前より有効な関係を築いていたと思われており、今回のように正面からの訴訟に発展するのは非常に予想外だとされています。営業秘密の取り扱いが重要であることが、一層ご理解いただけたのではないでしょうか。

コンサルティングファームからは円満な退職を!

独立前のコンサルタントは退職の仕方に気を付ける

先述の具体例は極端な事例ではありますが、賠償請求に至らないまでも前職の企業とのすれ違いを起こさないに越したことはありません。

そのために、メソッドの利用の際に先んじて確認を取ることが大事であることは既に書きましたが、そもそもその確認という行為が成立するためには前職との円満な関係を築いておく必要があります。つまり、退職する際には円満な形が望ましいということです。

既に独立されている方は過去の話になってしまいますが、現在まだどこかのコンサルティングファームに所属していて、これからフリーランスとしての独立を検討されている方はぜひ退職の仕方に気を付けるようにしましょう。

また、独立時の連絡などを通して前職のコンサルティングファーム当時のクライアント企業に営業をかけることは、厳密に言うとマナー違反にはなります。通例として黙認されてはおりますが、前職との関係にヒビが入っていると思わぬ火種になりかねません。なおのこと、円満な関係性の構築を心掛けてください。

前職の繋がりがコンサルティング案件に繋がることも

前職と円満な関係を築いた状態で独立をすると、案件の獲得に繋がるメリットもあります。

例えばアクセンチュアにはアルムナイ・ネットワークという、アクセンチュアから退職した25万人以上が所属する巨大なネットワークがあります。この繋がりを通して、国を跨いだ情報交換の場や求人の通知、復職の機会が与えられます。

このような元社員の繋がりを構築するネットワークは多くのコンサルティングファームに存在しており、独立後に享受できる恩恵も大きいものです。また、そうしたネットワークのないコンサルティングファームであっても、フリーランス向けの求人を紹介してもらえる可能性があります。そうしたチャンスを掴むためにも、前職のコンサルティングファームとは円満な関係を構築しておくことをお勧めします。

まとめ

今回の記事では、知的財産権と不正競争防止法の2点をベースに、以下のポイントをお書きしました。

  • 知的財産を侵害しないために、特許の有無を確認しよう
  • 知的財産に関してグレーな場合、前職の伝手を辿って確認をしよう
  • 前職と交わした書類上の文言を改めて確認しよう
  • 前職の営業秘密を侵害しないよう、情報の取り扱いに注意しよう
  • 前職との繋がりを構築するべく、退職は円満な形で行うようにしよう

また、フリーランスで活動するにあたり、グレーゾーンに感じたことや疑問に思ったことを気軽に相談できるアドバイザーを作っておくことも非常に重要です。数々のコンサルタントと企業様のマッチングを行っているWithConsulのエージェントを、ぜひあなたの相談相手としてお役立てください。

WithConsul 編集部

おすすめの記事