人間の姿にそっくりのAIアバターである「デジタル・ヒューマン」が注目を集めています。デジタル・ヒューマンとは音声認識と自然言語処理により感情の伴った「人間味」が創出されたAIのことで、顧客とのコミュニケーションを通してカスタマーエクスペリエンス(顧客体験)を向上させると言われています。
ガートナー社は「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2021年」において「デジタル・ヒューマン」の項目を追加しており、「このテクノロジは、ライセンス付与されたペルソナによって新しい収益源を生み出せる機会をもたらします」と記述しています。
人間のように振る舞うヒューマノイドが接客やサービスを行うということは、今まではSFの世界のお話でしたが、科学技術の進歩とともに実現が可能性を帯びてきました。
そこでこの記事では、顧客との接点においてデジタル・ヒューマンを投入することのメリットや、デジタル・ヒューマンの人間らしさの度合いについて、そして現実的に実装は可能なのかの3点を見ていきます。
デジタル・ヒューマンを動員するメリット
新体験による顧客満足度の向上
物を買ったりサービスを選んだりする際、amazonを始めとする販売プラットフォームやECサイトを利用することで、家に居ながらにして購入を行うことが可能です。すると、お店まで出掛けてショッピングを行うということに、必然的に何か付加価値が必要になってきます。
たとえば書籍の購入が分かりやすい例ですが、目当ての本を買うだけであれば、amazonで購入するほうがお店で買うよりも効率的です。「具体的な書籍は決まってはいないが特定のジャンルで良いものを買いたい」という場合も、客観的な評価やレビューのある販売サイトのほうが比較検討がしやすいものです。
書籍の場合、書店で本を購入するメリットはその購買行動にあります。お店でただ本やポップを眺めて歩く中で、心惹かれる書籍に出会うといった「偶発性」が、特に書店まで出向くことの大きなメリットとなります。
さて、デジタル・ヒューマンは消費者の店舗での購買行動の中で、エンターテイメント性を提供します。まるで人間のようなロボットが、ホームページの右下に登場するチャットボットよりもより人間らしい見た目や仕草で応対してくれることで、Webサイトで商品を選ぶよりも楽しくショッピングを行うことができるのです。
購買行動の中にエンターテインメントが合わさることで、店舗を訪れるという消費者の行動を推進することができ、「楽しさ」という側面から顧客満足度の向上や購買意欲の上昇が見込めるのです。
教育コストの削減とヒューマンエラーの回避
デジタル・ヒューマンは1回の研修、すなわち情報のインプットにより自身の役割を把握し、人為的なミスを犯すことなく接客を行うことができます。SNSを通した炎上や機密情報の流出といったリスクを無くすことができるのもまた、デジタル・ヒューマンの大きな強みのひとつです。
加えて、デジタル・ヒューマンは深夜帯でも休むことなく稼働することができ、個々の勤務時間や予定を考慮してシフトを組む必要がなくなります。オンラインでの顧客からの問い合わせに24時間応対することも可能であり、時差を考慮しなくてよいことからグローバルな接客応対も可能になります。
人間が長時間深夜帯まで働くと、思わぬ事故やトラブルに繋がることがあります。深夜バスでの事故や深夜のワンオペでの接客トラブルがニュースにて扱われることもしばしばあります。デジタル・ヒューマンを用いた自動運転などは、法律的な観点からもまだ難しいと思われますが、危険度の高い水準まで人間が働かなくてもよくなる時代が、これから来るかもしれません。
人間スタッフの負担削減
単純作業はデジタル・ヒューマンに任せ、複雑な処理は人間が担当することで、既存の人員の負担を軽くすることができます。例えばコンビニにおいて、品出しも会計もタバコの選択もコーヒーの入れ方の案内まで1人のアルバイトがやるよりも、担当セクションを分けて各々が一定のタスクに集中したほうが、負担を減らすことができるのではないでしょうか。
働き方改革にともない超過勤務や過重労働にメスが入る現代において、現場の負担軽減は社会的価値を創出します。具体的には、「経営者が給与決定にAIを活用する際に注意するべきこと」の記事においてご紹介した「三段階のAI活用」のように、部分的なタスクをデジタル・ヒューマンに振ることから現場への動員が見込めます。
デジタル・ヒューマンの人間らしさ
さて、デジタル・ヒューマンを活用するメリットを見たところで、デジタル・ヒューマンがどれだけ人間らしいのかという点について見ていきましょう。「人間らしさ」については、中身と外見の2つの要素から考えていきます。
まずは中身についてですが、会話や質問への応答といった顧客とのインタラクティブなやり取りには、まだ課題が見られると言えます。
デジタル・ヒューマンは対面での接客において、顧客の表情から感情を理解し、相手を慮った言葉を投げかけなければなりません。花屋にて来客が楽しそうな表情をしているのか哀しそうな表情をしているのかだけでも、お客さんが「花を買う」という行為の意味合いが変わってきます。人間らしい接客とは、お客さんが直接口にせずとも状況や背景を察することのできる気遣いの側面が大きいのです。
こうした例からも分かるように、デジタル・ヒューマンが「人間らしさ」をもつために必要な情報は、機械学習としてインプットすることがかなり難しいものです。お客さんが「嬉しそう」かどうかは、広角の上がっている角度や目尻の下がっている角度といった数値的情報のインプットだけでは判別できません。他者の感情の理解には、もう一段階ブレイクスルーが必要でしょう。
一方で、たとえば2019年末の紅白歌合戦に登場したAI美空ひばりのように、違和感なく人間として認識できるほどに見た目部分での技術は向上しています。
具体的には、3Dアナトミー(骨格からのモデリング)やスキニング(骨格の動きに応じた自然な変形)、レーザースキャニング(人間のモデルからの3Dデータのサンプリング)といったCG技術が、外見的なデジタル・ヒューマンの人間らしさに寄与しています。
映像をぱっと見ただけでは、それが現実のものかゲームのものか分からなくなっている時代が到来しています。人型を見ただけで、それが人間なのかデジタル・ヒューマンなのか見分けがつかなくなるのも、そう遠くはないと思われます。
デジタル・ヒューマンの実装は現実的に可能なのか
デジタル・ヒューマンの活用の項目で見たように、デジタル・ヒューマンを接客サービスで動員することにはさまざまなメリットがあります。
一方、デジタル・ヒューマンの人間らしさの項目で見たように、彼らは見た目においては申し分ないものの、インタラクティブなやり取りにおいて人間味を実装するにはまだ課題が残ると言えます。
ガートナーは「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2021年」において、主流の採用にかかる年数を10年と見ており、これから技術に対する期待のピーク→幻滅→啓発→定着までを10年かけて推移していくと見ています。お店に当たり前のようにデジタル・ヒューマンがいる光景が見られるのは、もう少し先の話になると思われます。
一方、すでに高度な3Dモデリング技術を用いてデジタル・ヒューマンを構築するサービスも出てきており、先進的な企業がいかに一般的な大衆を啓蒙するかが、デジタル・ヒューマンの定着に掛かっていると言えます。未だ科学者や技術者が気づいていないデジタル・ヒューマンの画期的な活用法に気づく企業が現れれば、ブレイクスルーが一気に起こる可能性もあり得るのです。
とはいえ、あくまで現実的な想定としては、話題性目的でデジタル・ヒューマンを広告塔に導入し、単純な接客応対を任せ、複雑なサービス案内や顧客のケアは人間が行うという、部分的な活用から始まるのではないでしょうか。
接客ロボットの先駆者と言えば、Pepper(ペッパー)くんを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。さまざまな店舗に導入された頃には一種のブームを巻き起こしたものの、2021年6月には生産停止が報道され、接客ロボットには限界があるのではという印象を抱いた方もいるかもしれません。
しかしながら、先述の通りデジタル・ヒューマンは主にモデリング技術を中心として飛躍的な進化を続けています。デジタル・ヒューマンが本格的に普及する頃には、あなたの前に立っているのが人間なのかデジタル・ヒューマンなのか分からなくなっているかもしれません。
まとめ
今回の記事では、AIを活用した先進的な技術として注目されているデジタル・ヒューマンについて、以下のことを記載しました。
- デジタル・ヒューマンは顧客満足度の向上や教育コストの削減や従業員の負担の削減がメリットとして見込める
- デジタル・ヒューマンはインタラクティブなやり取りにおいて課題があるが、外見は違和感のない高水準なものが開発されている
- デジタル・ヒューマンの本格的な普及は10年掛かると見られるが、部分的な活用や先進的な企業によるブレイクスルーが期待できる
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