ガートナー社は2021年の戦略的テクノロジーのトップトレンドの1つに、「トータル・エクスペリエンス」という概念を掲げています。

注目するポイントとしては、コロナウイルスを「ディスラプター(創造的破壊者)」と称している点と、その創造的破壊者をトータル・エクスペリエンスにより活用できるとしている点です。トータル・エクスペリエンスとはどういうものなのか、具体的に見ていきましょう。

トータル・エクスペリエンス(TX)について

トータル・エクスペリエンスの概要

出典:Gartner Top Strategic Technology Trends for 2021
https://www.youtube.com/watch?v=s3rlYWcwdDY

トータル・エクスペリエンスとは、マルチエクスペリエンス (MX)、カスタマーエクスペリエンス (CX)、従業員エクスペリエンス (EX)、ユーザーエクスペリエンス (UX)の4つを組み合わせ、ビジネスの構造を変革することで創出される総合的な体験のことです。

カスタマーや従業員とあるように、トータル・エクスペリエンスの特徴として複数の視点が用いられている点が挙げられます。サービスを提供する企業・従業員・顧客のそれぞれが体験を通して利益を享受できる仕組みこそがトータル・エクスペリエンスの神髄と言えます。

コロナウイルスという「創造的破壊者」を活用する戦略

コロナウイルスにより、企業・従業員・顧客はリモートワークやデジタルトランスフォーメーションにより物理的な距離を引き離される形となりました。多くの企業はこの出来事によって、顧客満足度の向上や新規顧客の獲得に難儀していると思います。

一方で、このコロナ禍でも顧客と良好な関係を構築し、企業・従業員・顧客にとって良い体験を提供できる仕組みがあるとすれば、それは競合を出し抜く強力な優位性となります。「創造的破壊者を活用する」ということは、コロナを巧く利用して競合他社への競争優位性を築くという意味合いなのです。

たとえばとある通信会社では、提携したアプリを介して店舗の予約を行ったユーザーに対し、店舗から75フィート以内に入るとチェックインの案内通知と店舗外の待ち時間の通知を行います。店舗に来店してから行う案内のプロセスをカットすることで、ソーシャルディスタンスという安全性とユーザーにとっての利便性、そして顧客回転率が向上すると思われます。

4つのエクスペリエンスを結びつける重要性

ガートナー社のレポートからは、先述の4つのエクスペリエンスを結びつけることの重要性が分かります。先ほどの例でも、アプリでユーザーに通知を送ることは顧客だけにとってメリットがあるわけではなく、企業・従業員・顧客の三方に利益があることが分かります。

では、トータル・エクスペリエンスの要素となるマルチエクスペリエンス (MX)、カスタマーエクスペリエンス (CX)、従業員エクスペリエンス (EX)、ユーザーエクスペリエンス (UX)とはいったい何なのか。それぞれ見ていきましょう。

トータル・エクスペリエンスを構成する4つの要素

マルチエクスペリエンス(MX)とは

マルチエクスペリエンスとは、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)・MR(複合現実)により生み出される、現実では体験できないような知覚体験のことです。

VRというとゲームをはじめとするエンターテインメント向けの技術のように思われるかもしれませんが、たとえば顧客がVR上で商品を閲覧し、販売員から商品説明を受け、商品購入を行うというショッピングの一連の流れを体験するといったことも出来るようになっています。

ARの技術では、たとえばスマートフォン越しに360度カメラで物件を内見できるサービスがリリースされています。表面のテクスチャなどはやや簡素化されていはいますが、モノの位置関係や広さを現実と遜色ない形で知覚することができます。

こうした知覚体験は、顧客に日常と同じ場所にいながら非日常的な刺激を与えることができます。没入感がありリアリティのある体験は顧客にとって記憶に残り、購買への意思決定を促せるため、競合から一歩リードした形で顧客獲得を行うことができるのです。

カスタマーエクスペリエンス (CX)とは

カスタマーエクスペリエンスとは、顧客への商品の販促から購入後のサポートに至るまでの顧客の体験のことです。

飲食店を例に挙げると、街中やアプリで店を見つけ、入店・注文・食事・会計を行い、店を後にするまでの一連がカスタマーエクスペリエンスとなります。人によっては飲食店のレビューを行ったりSNSに食事の写真をUPすることもあると思いますが、顧客に結び付いた体験であることからこれらもカスタマーエクスペリエンスに含まれることがあります。

サービスの提供者がカスタマーエクスペリエンスをより良いものにすることにより、顧客がリピーターになってくれたり、口コミで拡散をしてくれるメリットが生じます。

そのため、近年ではSNSに商品について投稿することで割引になったり、インフルエンサーには無償で商品を提供してレビュー・拡散をしてもらったりといった、口コミによる波及効果を狙った施策もあります。

そうした施策を行う一方で、カスタマージャーニーを意識して顧客と商品の接触機会を可視化し、顧客満足度を高めることでカスタマーエクスペリエンスは向上していきます。

従業員エクスペリエンス (EX)とは

従業員エクスペリエンスとは、仕事に対する満足度やスキルの向上、組織経験や福利厚生といった従業員が仕事を通じて経験するすべての体験のことです。

従業員エクスペリエンスが向上することにより、従業員の企業への定着率が上昇すると共に、従業員がより円滑にキャリアを形成することで企業の成長が促進されます。

競合他社との競争が熾烈となっている近年において、優秀な人材の醸成と確保は企業にとって至上命題と言っても差し支えありません。その中で、ブラック企業が問題となったり人材流出や慢性的な人材不足に悩まされる企業が増加したりと、従業員にまつわる課題が可視化された時代でもありました。

そうした課題への解決策として、従業員エクスペリエンスは注目されています。特に、定期的な従業員へのアンケートの実施や上司との定期的な面談を行うことにより、普段は目に見えない従業員の心理的な側面を汲み上げるアプローチは、従業員エクスペリエンスの向上のヒントになります。

ユーザーエクスペリエンス (UX)とは

ユーザーエクスペリエンスとは、商品・サービスを利用する際にユーザーが得る体験全般のことを指します。

カスタマーエクスペリエンスと重なる部分もありますが、ユーザーエクスペリエンスは商品を触ったときの質感やバッテリーの持ち具合など、実際に使用した際の体験によりフォーカスが置かれています。

対照的に、カスタマーエクスペリエンスは先例の飲食店で言うところの「食事」という体験全般にフォーカスが置かれます。また、商品販売後にカスタマーサービスの窓口を開き、商品に関する質問を受け付けるようなアフターサービスは、カスタマーエクスペリエンスに含まれます。

ユーザーエクスペリエンスの向上は、ユーザーがアプリケーションを触ったときの使いやすさの改善や目に負担を生じさせない工夫など、ユーザーの五感や生活に訴求することが多くなります。そのため、ユーザーの体験をより具体的にアナログに意識し商品を開発し、テスターによる試作品体験のフィードバックを経てさらに商品を改良するといった、地道且つ双方向的なやり取りが要となります。

まとめ

今回の記事では、トータル・エクスペリエンスについて以下の点を解説しました。

  • トータル・エクスペリエンスとはMX、CX、EX、UXの総称である
  • トータル・エクスペリエンスの向上により競合に対する強い優位性が得られる
  • マルチエクスペリエンスとはVR・AR・MRにより生み出される知覚体験である
  • カスタマーエクスペリエンスとは商品に関する顧客の総合的な体験のことである
  • 従業員エクスペリエンスとは従業員が仕事を通じて経験するすべての体験のことである
  • ユーザーエクスペリエンスとは商品の利用時にユーザーが得る体験全般のことである

特に重要な点は、先述のとおり商品・サービスを通じて企業・従業員・顧客の三方がメリットを享受できることです。自社の扱う商品・サービスは三方にどのような利点があるのか、そして各体験の間には結び付きがあるのか、改めて総合的に確認してみるとよいのではないでしょうか。

また、トータル・エクスペリエンスの向上には事業間を跨いだ連携が必要となります。ユーザーエクスペリエンスは商品企画・商品開発に関わりが生じ、従業員エクスペリエンスは人事や労務が関わる必要があります。

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