デジタル技術を活用して新たなビジネスモデルを構築するDX(デジタルトランスフォーメーション)が近年のビジネスシーンで話題となっています。経済産業省は2018年に、日本企業がDXに着手しなければ年間で最大12兆円の経済損失が生じると試算しています。
経済産業省主導でのDX促進から3年が経ち、DXの成功・失敗の明暗が企業ごとに徐々に見えてきています。海外の過去の例で言えば、トイザらスやコダックのようにDX戦略のミスが経営に致命的な破綻をもたらすリスクもあります。
そこで、今回の記事ではまずDXについての概要に簡単に触れた後、DXの成功と失敗の分かれ目となるポイントを、過去の事例を参照しながらご紹介していきます。社内でDX推進を担当されている方や、DXの必要性を感じながらもまだ着手できていない企業の代表の方は、ぜひご参考にしてください。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは
経済産業省のガイドラインからDXを読み解く
2018年に経済産業省から発表された「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)」からは、DXの基礎的な枠組みや考え方を知ることができます。
当ガイドラインでは第一に、DXの推進のために老朽化・複雑化している既存のITシステムの刷新の必要性と、刷新に伴った現場サイドの抵抗という課題について触れています。
それを踏まえた上で、経営戦略やビジョンを提示することの重要性を説いています。戦略のない技術起点でのPoCや「AIを使って何かやれ」といったトップダウンの丸投げは疲弊と失敗に繋がります。
また、DX推進にあたって成功の鍵となるのは積極的な挑戦へのマインドセットや、経営戦略とビジョンの実現への推進・サポート体制の構築、そしてデジタル技術やデータ活用に精通した人材の確保であるとしています。
そして、DX実現の基盤となるITシステムの構築は、新規で導入するITシステムと既存のシステムの円滑な連携と、複雑化・ブラックボックス化を避けるためのガバナンスの確立が要であるとしています。
DXの重要性について
先述のガイドラインでは、DXの重要性についても説いています。
DXを実現しないことによってデジタル移行するマーケットから排除されるリスクについて触れており、失敗を恐れて何もできなかったり、定量的なリターンにこだわるあまり挑戦を阻害する環境になってしまうことが失敗であるとしています。
すなわち、先述のDXの基礎を理解した上で、ビジネスモデルの変革に正しく踏み切ることが大事であるとしているのです。
成功と失敗の事例を参照する重要性
しかしながら、では具体的に自社でどのような段階を踏めば正しい変革に至るのか、その道筋が見えてこない方もいるのではないでしょうか。
特に、定量的なリターンに拘らないとなると、その変革が正しい方向に向かっているかを定点観測する方法が失われてしまいます。常態的に行われる日々の業務もある中で、DXはそのプラスαとして行われるものですから、トップや担当者が現場に張り付く形でチェックすることも難しいでしょう。
そこで重要となるのが、先行例から成功と失敗の事例を参照することです。業界は違えどそのエッセンスは並行利用できることがあるため、具体的な実行ステップを理解するにはやはり具体例を参照することが効果的です。
そこで、まずはDXの成功事例と失敗事例を2点ずつ見ていきましょう。
DXの成功事例集
成功事例1:コマツがIoTを搭載した建設機械を導入
GPSが搭載されたコマツの機械稼働管理システム「KOMTRAX(コムトラックス)」は、機械の位置やエンジンの稼働の有無、燃料の残量や先日の稼働時間などをオフィスから把握することを可能にしました。
製品を購入した顧客は、建設機械の稼働率の向上、保守サービスに掛かる費用の削減、盗難の防止といったメリットを享受でき、世界ではこのコマツの建機が30万台稼働しています。
「KOMTRAX(コムトラックス)」の原点は1998年にまで遡ります。工業用の機械の盗難が問題視されていた当時、カーナビから着想を得て「GPSを搭載したら盗難を防ぐことができないだろうか」という案が経営企画会議にて上がったとのこと。
GPSが搭載されることのメリットは、機械の購入者である顧客だけでなく、商品の点検・管理を行う自社にも生じることが判明しました。点検を行う機械の場所が分からないことがあり、その機械の場所を割り出すために顧客と長時間の電話を行うことがあったとのこと。自分たちにとっても画期的なメリットがあったことが、実行に踏み切るための原動力となったようです。
会社の総利益の2%もの額を投資して行われたIoT化のDXは、短期的な利益率の悪化を受け入れた上での思い切りのよい推進によって行われました。この事例からは、DXを遂行した際に自社と顧客に生じるメリットを具体的に検討し、リスクリターンを天秤に掛けた上で実行を決意したら、中長期的に根気強くアプローチすることが成功の秘訣であることが分かります。
成功事例2:キャロウェイがAI技術でゴルフクラブを開発
AIが設計したキャロウェイのゴルフクラブ「FLASH フェース」は、クラブの耐久性を確保しながらボールの初速を最大限に引き上げ、飛距離の向上に寄与しました。
FLASH フェースの特徴的な部分は、フェースのデザインが左右非対称で波打った形状をしていること。設計と改良をAI主導で行ったことにより、人間の発想からの大きなブレイクスルーが起こっています。
キャロウェイ本社のエンジニアであるジム・セルーガ氏の話からは、初期のAI自体の設定フェーズにおける試行錯誤の跡が伺えます。AIから答えすら出てこない状態から、人間の側で協議を重ね、地道な調整を行ったとのことです。
石川遼プロが「非常に飛ぶ」と紹介し、2019年に話題となったこのゴルフクラブは、2016年から3年かけて、15,000回もの解析と修正によって完成に至ったとのこと。
AIを用いたゴルフクラブの革命的なデザインというと非常に華があるように思えますが、人間の知恵と根気による泥臭いアプローチが必要な段階もあるということです。この事例は、DXの導入・推進自体にも当てはめて考えることが出来るのではないでしょうか。
DXの失敗事例集
失敗事例1:経営破綻に追い込まれたトイザらス
トイザらスが経営破綻に至ったニュースが、2018年に世間を騒がせました。小売プラットフォームであるAmazonとの足並みが揃わなかったことが痛手となった、といった分析がされています。
2000年にトイザらスとAmazonの提携が結ばれた当時、トイザらスは受注から決済までの業務全般が効率化され、Amazonは在庫問題が解消されることから双方にとって利益をもたらすと言われていました。
しかし、2003年にAmazonが他の玩具業者とも提携を行ったことから関係が悪化し、裁判所への提訴等を経て2006年には提携関係が解消されました。この件がトイザらスの破綻の序章であるとされてきました。
一方で、DXの失敗がトイザらスの経営面での致命傷となったという見方もあります。
使い古されたレジやPOS機器がSNSで拡散されてしまい、テクノロジー面に明るくない印象が付いてしまったトイザらスですが、実はタブレットの導入などの散発な投資は行われていました。しかし、その導入は負債を抱えた後のことで、思い切った設備投資ができないフェーズでの苦肉の策でした。
スピーディかつダイナミックな変革が求められる近年のビジネスシーンにおいて、トイザらスがDXの潮流に乗り遅れた感は否めません。早期からデジタル化に向けた設備投資が行われていれば、Amazonと手を取り合わなかったとしても生存の道はあったのではないでしょうか。
失敗事例2:倒産に追い込まれたコダック
世界最大の写真用品メーカーであったイーストマン・コダックは、2012年に倒産に至りました。20世紀のコダックを知る人からすれば、トイザらスと同等かそれ以上のインパクトがあったと言われています。
過去に旧分野での大きな成功を抱えていると、新しいイノベーションが遅れてしまうことを「イノベーションのジレンマ」と呼びますが、まさにコダックはこの代表例であるとされています。
アナログのカメラが携帯電話やスマートフォンに取って代わられる市場の変化に対しコダックの適応が遅れたのは、まさに過去の成功が足枷となった部分が大きいのではないでしょうか。
しかし、コダックは顧客ニーズの変化に対し何もしなかったわけではありません。新商品の開発やデジタル技術への投資は時宜に応じて行ってきました。明暗を分けたのは、その力を入れた新商品やデジタル技術がデジタル写真の印刷に向けられたことです。
撮った写真を友達と共有する行為は、今の時代スマートフォンやiPadのようなタブレットの中で完結することが大半なのは、ユーザーからすれば敢えて言葉にせずとも分かることだと思います。
このユーザー体験から逸する形で、デジタル写真をアナログに印刷する方面で舵を切ってしまったのは、やはりイノベーションのジレンマによるところが大きいでしょう。いかに過去の成功体験と袂を分かつかという点も、DXにおいて重要な決断となるのです。
DXの成功と失敗の分かれ目
ポイント1:トップが能動的に変革をドライブできるか
上記の事例を参照すると、DXには大きな決断と継続的なアプローチが必要であることが分かると思います。特に大事なポイントは、企業のトップがいかに能動的に変革を推進できるかという点です。
コマツの例で言えば、短期的な不利益があっても企業の総利益の2%という大きな額を投資し、イノベーションに向け旗を振ったことが大きな成功要因です。逆にトイザらスのような散発的な投資を事後対応的に行ってしまうと、DXを完遂できずに企業体力的にゲームセットとなってしまうのです。
ポイント2:オープンイノベーションで外部の声を汲めるか
コダックの例からは、イノベーションのジレンマによってユーザーにとって自明であるUXの変化にさえも適応できなかったことが分かります。すなわち、変革を一企業独自の力で行おうとすると、過去の成功でさえも思いがけない阻害要因になりうるということです。
社内のリソースだけで完結せず、外部の声を汲んだオープンイノベーションを行うことでこの足枷を解くことができます。敢えて通例をさて置けばブレイクスルーを起こせるということは、キャロウェイのゴルフクラブの形状を見れば頷けることでもありますね。
経済産業省のDX 推進ガイドラインにおいても、DXに向けた外部人材の登用を推奨しています。当サイトのサービスであるWithConsulでは、DXのスペシャリストであるフリーランスのコンサルタントの紹介も行っておりますので、企業のDX担当者の方はぜひご利用をご検討ください。
ポイント3:PoC(概念実証)を適切に遂行できるか
コマツのGPS搭載の建設機械やキャロウェイの人工知能設計によるゴルフクラブは、実証実験を経ずにいきなり製作されたものではありません。PoCなくしてはIoTやAIの導入は不可能であるとも言われるように、アイディアの試行による実現可能性の検証が非常に重要なステップとなるのです。
注意点としては、PoC自体が目的にならないようにすることです。PoCは実現可能性を可視化することと投資や実行の判断材料となることが目的であり、PoC自体はあくまで手段であるということは忘れないでおくようにしましょう。
まとめ
今回の記事では、DXの具体的な成功事例と失敗事例を交えながら、DXの成功要因について触れてきました。重要なポイントとしては以下の通りです。
- 経済産業省のガイドラインからは、DXの推進には積極的な挑戦へのマインドセット、サポート体制の構築、適切な人材の確保が重要であることが分かる
- 経済産業省のガイドラインからは、失敗を恐れて何もできないことや、挑戦が阻害する環境が醸成されてしまうことが失敗であることが分かる
- 過去の事例からは、トップによる能動的な変革の推進、外部の声を汲んだオープンイノベーションの実施、PoCの適切な遂行の3点が成功の要であることが分かる
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