デジタルマーケティング領域を中心に事業を加速的に拡大しているアクセンチュア。この記事では近年新設が続くアクセンチュアのイノベーションセンターにフォーカスを当て、具体的な事例からテクノロジー分野における展望を読み解いていきます。
アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京
アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京(以降AIT)は、デジタル特化の専門スキルや社内外の先端スキルを集約し、新しいイノベーションを創出することを目的として港区の麻布十番に2018年1月に開設されました。
AITにはインタラクティブ・モバイル・ベンチャー・デジタル・近未来技術・NewITをテーマとした6つのスタジオがあり、“イノベーション as a Service”をコンセプトに新規ビジネスの創出・新製品やサービスの創出・組織や企業の変革をサポートしています。
電光掲示板やネオンの輝く先進的なオフィスからは、旧来のコンサルティング領域に見られるデスクワークという典型的なイメージからの脱却の狙いが窺えるようです。まさにコンサルティングという仕事に対するイノベーションすらも視野に入れた、アクセンチュアならではの革新的な試みと言えます。
参照:アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京(オフィシャルサイト)
アクセンチュア・イノベーションセンター福島
2011年に福島県会津若松市に開設されたアクセンチュア・イノベーションセンター福島(以降AIF)が、2019年4月に同市に移転・拡充を発表しました。
会津若松といえば鶴ヶ城や白虎隊のイメージもあり、一見AITに見られるような先進性・革新性とは異なるロケーションにも思えるかもしれませんが、実は会津若松は市と経産省主導のもと「スマートシティ会津若松」という地方創生モデル都市となっています。
この「スマートシティ会津若松」を中心となって推進しているのがアクセンチュアで、2019年12月には行政サービスIT化の基盤となる都市OSの機能の強化など、現在進行形で開発が進んでいます。
AIやIoTを導入した一種の実験都市として、新時代の都市開発と地方創生の結果を全国に発信する中心拠点がこのAIFです。2019年4月に発表された移転と拡充は、都市OSのシステム開発やテスト業務を首都圏からこの拠点へと移管するためでもあります。また、ICT産業の集積のため2019年4月に誕生したICTオフィスである「スマートシティAiCT」に入居する企業との連携強化も目的です。
ICT(情報通信技術)には場所に縛られず人と人が繋がるイメージがあるかもしれませんが、地方創生や都市開発と噛み合うことでむしろ地域密着の側面が強まります。前例であるAITとは異なり地域密着型で会津若松市に建てられたAIFもまた、切り口を変えたイノベーションの在り方と言えるでしょう。
参照:アクセンチュア、イノベーションセンター福島を移転・拡充(プレスリリース)
アクセンチュア深セン世界イノベーション研究開発センター
2019年4月、中国の深セン(深圳)にアクセンチュアのイノベーションハブが開設されました。このイノベーションハブにはリサーチとラボに加え、AITにも見られるベンチャーとリキッドスタジオ(NewIT推進)の機能を有しています。
「アジアのシリコンバレー」とも称される深センには、アジア最大の通信機器会社「ファーウェイ」や中国最大のSNS「WeChat」を運営する「テンセント」といった新時代IT領域の巨大企業が集積しており、イノベーション先進都市としての側面が色濃くあります。
深セン市の住民は平均年齢が32.5歳(28歳とも)と若く、起業精神にあふれた野心ある若者が集まっています。その魅力は融資のスピードであり、起業のアイディアが製品やサービスとして形になるスピードが他の都市よりも有意に早い点です。
このようなイノベーションのホットスポットとも言える産業都市に、アクセンチュアが研究開発センターを置くのは必然とも言えるでしょう。このイノベーションハブではAI分野やロボティクス技術、インダストリーX.0に力を入れており、最先端技術の研究開発に邁進しています。
参照:アクセンチュア調査レポート「テクノロジービジョン2019」(オフィシャルサイト)
シンガポールイノベーションセンター
2020年1月、アクセンチュアは”Situational awareness”のためのイノベーションセンターをシンガポールに開設しました。”Situational awareness”は直訳すると「状況認識」ですが、具体的にはAI主導の分析とビッグデータの照合による犯罪対策を指します。
アクセンチュア曰く、先端技術を用いて犯罪対策を強化するにはデータ・エコシステム・市民の包括的な繋がりが必要とのこと。市民の行動分析と都市環境および過去の犯罪データを参照することで、未来に起こり得る犯罪を予測し未然に防ぐことを可能とします。
なぜAIによる犯罪対策分野の研究開発をシンガポールで行うかというと、まずはシンガポールが外国人観光客や多国籍企業を広く受け入れる中で世界平和指数ランキング(英エコノミスト紙掲載)が第20位と高いランクをつけるほど平和な国であることが挙げられます。
シンガポールには刑罰として鞭打ち刑が存在したり、タバコのポイ捨てが罰金刑となったりとルールが厳しく、「洗練された」「罰金大国」というダブルミーニングからFine Cityと呼称されるほど。この刑罰の厳しさが犯罪の抑止力となっていることもあり、犯罪対策の土壌としては適していると言えます。
また、シンガポールでは自国をAIの世界的リーダーとする国家戦略が打ち出され、AI人材の育成に約120億円が投じられるほどAIに力を入れています。このような背景から、AI×犯罪対策を研究開発するにはシンガポールというロケーションが適しているのです。
参照:Accenture Opens Innovation Center for Situational Awareness in Singapore(プレスリリース)
参照:Situational awareness(オフィシャルサイト)
総括・まとめ
上記4つの具体例から、アクセンチュアのイノベーションセンター新設からはそのロケーションと密に絡んだテクノロジー展望があることが分かります。無作為に海外拠点を林立するのではなく、イノベーションを核とした戦略的な展開を行っており、新時代の技術革新の創出を主導する気風が感じられます。
また、一口にイノベーションと言っても新事業支援から地方創生、犯罪対策に至るまでその内容は多岐に渡ることが分かります。コンサルタントとして転職や独立を考えている方は、先々自身がどの分野に携わっていきたいかを考えながらキャリアパスを描いていくとよいでしょう。
WithConsul 編集部