既にコンサルティング業界で働いている人でも、コンサルタントという職業の歴史を知らない人も多いのではないでしょうか。この記事では、コンサルティング業界の歴史からコンサルタントという職業の出現と業界の発展・変遷を見ていきましょう。

コンサルティングの原点

19世紀末に「科学的管理法」を用いてアメリカの工場の作業効率化を行ったフレデリック・テイラーという人物が最古のコンサルタントであると言われています。

テイラー氏の実績は「シャベルすくいの実験」に見ることができます。工場における鉄鉱石や石灰などの運搬作業において、1日にどれほどの量を掬えば効率が最適化されるかの研究を行いました。テイラー氏は研究調査の結果、1回ですくう量が21ポンド、1日で掬う量が59トンとするのが最適解であるとしました。

次にテイラー氏は重い鉱物と軽い鉱物で用いるシャベルを使い分けたり、掬って投げるまでの一連の動作の効率化を図ったりしたうえで、その作業方法を作業員全員に共有・教育しました。すると作業の効率化による生産性の向上だけでなく、作業により生じる平均のコストを半減させ、1人あたりの平均賃金も1.15ドルから1.88ドルへと大幅に向上させました。

科学的管理法の4つの原則と5つの実施内容

テイラー氏はこの「シャベルすくいの実験」を端に発し、「科学的管理法」を成熟させ4つの原則と5つの実施内容を打ち立てました。この原則は以降のコンサルティングファームの誕生や業務内容に大きな影響を与えたとされています。

■科学的管理法の4つの原則

1.工員の古い体験的知識の打破

2.工員の科学的選考と育成

3.管理者と工員の親密な協働

4.仕事と責任を管理者と工員で均等に区分する

■科学的管理法の5つの実施内容

1.課業管理(課業の設定と達成のための管理)

2.作業研究(課業設定のための内容と実施量の研究)

3.指図票制度(課業の標準化・マニュアル化)

4.新しい賃金制度(達成率を基にした出来高払いの導入)

5.新しい組織(班組織から職能組織への移行)

コンサルティング会社の始まり

19世紀後半にテイラー氏の確立した科学的管理法が浸透していくと同時期、組織運営の効率化を求めるニーズの拡大に伴い個人で活動する経営コンサルタントの需要が高まりました。

コンサルタントによる事務所が作られ、1886年にはアーサー・D・リトルという世界で最初のコンサルティング会社が設立されました。当初は技術開発の委託研究などがメインに行われていましたが、新しい経営手法の導入・実施を担当するようになりコンサルファームとしての色が強まっていきます。

1926年にはマッキンゼー、A・T・カーニーといった今日でもよく知られる経営コンサルティングファームが設立され、その後も続々とコンサル会社が登場することになります。

日本でのコンサルティングの始まりと浸透

20世紀半ばには欧米を中心に数々のコンサルファームが登場する一方、日本では製造業を中心として「モノを作れば売れる」を体現しており、海外進出を視野に入れたタイミングで戦略コンサル・経営コンサルのニーズが高まりました。そうした背景もあり、1957年には日系コンサルファームのタナベ経営が設立されます。

1966年にはボストンコンサルティングが日本支社を開設し、1973年のオイルショックを機に日本の高度経済成長が終わりを迎えると、経営の改善や効率化のニーズの高まりと共に外資系コンサルファームが続々と日本に進出します。

1975年には大前研一氏の著書『企業参謀』の出版とともに、経営コンサルタントの概念がさらに広まります。「モノを作れば売れる」から「良いモノを作れば売れる」時代へと推移し、各企業が製品・サービスのコンセプトの明確化・差別化が求められるようになり、戦略コンサルタントの活躍する機会が増えたのでした。

顧問や相談役のようにクライアントに寄り添う側面が日系コンサルの強みとして挙げられますが、一方で日本発の会計コンサル(等松・トウシュロスコンサルティングなど)やシンクタンク系(三和総合研究所など)といった多彩なコンサルファームが誕生していきます。

コンサルティング業界に訪れた変革

1970年代中頃、8ビットマイクロプロセッサのコンピューターの登場により、データ処理や計算機能の向上・低価格化が起こりPCを持つ企業・家庭が増加しました。1981年にIBMが16ビットのCPUを搭載したコンピューターをリリースすると、互換機の浸透に伴ってコンピューター市場は急速に拡大していきます。

こうしたPCの性能向上と市場拡大とともに、ITコンサルティングの需要が高まっていきます。80年代~90年代にはITと経営が密に絡むようになり、双方の知見を持つコンサルタントが活躍するようになりました。

PC市場においてブラウザ戦争が過熱する90年代、日本ではバブル不況によってBPR(業務改革)や事業再生といった今までにないコンサルニーズが拡大していきます。

一方海外では、マッキンゼーやアクセンチュアなど各コンサルティング会社の経営拡大や市場競争が白熱する中、2001年末にエンロンの粉飾決算が明るみとなりました。

当時エンロンの財務監査を担当していたアーサー・アンダーセンは解散となり、会計業務の独立性や企業の情報開示や説明責任に関する言及と罰則規定を設けたサーベンスオックスレー法(SOX法)が制定されました。

このエンロン事件は米国企業の不正監査疑惑の拡大を促し、粉飾決算の発覚によりダウ平均が大きく下がるなどエンロンショックと呼ばれる事態になりました。以降、会計コンサルティングサービスは透明性の担保や情報開示、コンプライアンスの遵守などを求められるようになり、他領域のコンサルティングファームにも同様の価値観が醸成されていきます。

これからのコンサルティング業界

コンサルティング業界の歴史はまだ1世紀半ほどの長さではありますが、時代の変化に沿って急速な発展と変革を行ってきたことが分かると思います。

今日ではグローバル化による企業組織の複雑化に伴った人事コンサルティングの需要の増加、AIやRPAの導入・運用を行うITコンサルタントの活躍、SNSやECサイトのビッグデータ分析を用いた戦略コンサル・シンクタンク系企業の躍進など、よりコンサル業界の変化の加速が見られます。

業界の変化をキャッチアップしながら、並行して業界の歴史に根付いている「クライアントの課題解決」という根底の価値観・使命観を再確認し、自身のキャリアを描いていきましょう。

WithConsul 編集部

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