コンサルが使う言葉は横文字や略語が多くてよく分からないというのはよく聞く話です。また「その言葉、定義は一応知っているけど実はイマイチ分からないんだよね~」なんて感じたことがある方も多いのではないでしょうか。
というわけで今回は幅広い方を対象に、これだけは押さえておくべきだろうというコンサル用語をピックアップしてみました。
ただし、一口にコンサルと言っても「○○系」と多くの分野に細分化されています。今回は当社でも特に取扱いの多いIT系や戦略系などを中心に頻出用語を取り上げていきます。
また、厳密さにこだわらない、イメージを助けるためのプラスアルファ情報を付け加えました。個人の経験や主観も含まれますので、その点ご了承ください。
目次
- ウォーターフォールモデル
- アジャイル
- Bl (Business Intelligence)
- CRM (Customer Relationship Management)
- SFA (Sales Force Automation)
- PLM (Product Lifecycle Management)
- SCM (Supply Chain Management)
- ロジスティクス
- SaaS (Software as a Service)
- ERP (Enterprise Resource Planning)
- SAP
- アーキテクチャ
- DX (Digital Transformation)
- RPA (Robotic Process Automation)
- BPR (Business Process Re-Engineering)
- BPO (Business Process Outsourcing)
- オフショア化
- PMO (Project Management Office)
- ITガバナンス
- チェンジマネジメント
- ITIL (Information Technology Infrastructure Library)
- ITアーキテクト
- RFP (Request for Proposal)
- プロポーザル
- アウトプット
- ベンダー
- M&A (Mergers and Acquisitions)
- デューデリジェンス(Due Diligence)
- PMI (Post Merger Integration)
- カニバる
- ケイパビリティ
- ブレイクダウン
- ファシる
- サチる
用語集
1.ウォーターフォールモデル
定義:もっともポピュラーなシステム開発モデルであり、開始から終了まで直線的に各作業工程をクリアしていく手法である。そのため、水が流れていくという意味でウォーターフォールモデルと呼ばれる。
プラスアルファ:「ウォーターフォールは古く、アジャイルは新しい」と考えられがちですが、それは単純化しすぎです。それぞれにメリット・デメリットがあります。特に、アジャイルは基本的に小規模開発向きであるため、大規模システム開発では当面はウォーターフォールモデルが主流でしょう。また、ウォーターフォールだと手戻りができないだとか、リスクの顕在化時期が下流工程に集中してしまうだとかがよく言われますが、それらを考慮して事前に工数を確保しておくなどの工夫を加えることはできます(まあそういったことがなかなか理解してもらえないから、かつかつの予算の中で余裕のない計画を立てざるを得なくなるわけですが・・・。少し話がそれますが、軍事の世界では戦略レベル/戦術レベル問わず「予備」を確保しておくことは基本中の基本とされているのに対し、ビジネスの世界では無駄を省くことばかりが優先されるためこのような考え方はあまり通用しないように感じます)。ようは、相互排他的に捉えるのではなく状況に応じてそれぞれのイイトコどりをできるのがべストかと思われます(ただし、アジャイル開発に慣れるとウォーターフォールではもうやりたくない、と感じる人も多いようです)。
2.アジャイル
定義:アジャイルとは「機敏さ」や「活発」などを意味する単語であり、システム開発において「密なコミュニケーション」、「実践とフィードバックの反復」、「ユーザー要求の重視」、「変化への対応」という4つの価値に重きを置く、という考え方。よくウォーターフォールモデルと対比されるが、厳密には開発モデルではなく開発思想である。アジャイル思想を具体化した開発モデルとして、スクラムやエクストリーム・プログラミングなどがある。
プラスアルファ:ウォーターフォール型の開発ばかりやってきた人には、定義だけ聞いてもイマイチピンと来ないという方も多いでしょう。とりあえずのイメージとしては「小刻みなウォーターフォール・サイクルの繰り返し」で良いのではないでしょうか。ウォーターフォールモデル開発は進捗管理がしやすい反面、要件変更(Change Request)やバグ修正などの手戻りに弱いと言われます。特に、リリースしてプロジェクトが終了したあとに発覚した障害への対応や使い始めて改めて生じた要件への対応となると、要員は既に別プロジェクトにアサイン済のためまったく予定外の工数が割かれることとなってしまいます(そういったことがIT業界のブラック化に・・・ゴニョゴニョ)。アジャイル思想のもとでの開発ならば、「要件FIX」とか「コードFIX」とか言ってお互いにバリアを張り合うのではなく、初めから修正が加わる前提の中でゆるーく要件定義~開発~運用を繰り返すことになるため、継続的に品質向上していくことができますし、ワンチーム精神が育まれIT側からユーザー側への提案なども出て来やすくなります 。何より「スピード」や「変化への対応」という点においてウォーターフォールに優ることに異論はないでしょう。
ちなみに、10名以下が基本と言われるように小規模開発向けとされるアジャイルですが、大規模システム開発におけるアジャイルの実践例・成功例も増えてきています。特にシリコンバレーやブラジルなどに一日の長があるようです。いくつか開発モデルも提唱されていますが、基本的には複数の小規模チーム(スクラムチーム)を連携させるという類のものとなっています。
アジャイル思想はシステム開発のみならず経営手法などにも適用されており(アジャイル経営)、トップダウン・縦割りの従来型経営から顧客起点・部門横断的な手法に変えることがVUCA時代に有効であると言われています(ちなみに「VUCA」も元は軍事用語です。「兵は拙速を尊ぶ」なんて言葉もあったりします)。
3.Bl (Business Intelligence)
定義:一言でいえば、企業内に蓄積されたデータや社外の有益なデータを最大限有効活用すること。またそのためのツール。
データの収集、分析、加工などの機能全般を担う。各部署に散在していたり、ビジュアル化されていなかったりといった要因により活用できていないデータの、潜在的な価値を引き出すことに意味がある。
プラスアルファ:「インテリジェンス」と付いているように、CIAのような諜報機関を社内に設置するイメージを持つと面白いでしょう(細かいことを言うと、CIAではスパイの活用をメインとした対外工作のイメージが強いためNSA(アメリカ国家安全保障局)や内調(内閣情報調査室)などの方が近いかもしれません)。例えば、9.11を防げなかったことはインテリジェンスの失敗の典型例として有名です。CIAはビンラディンによる米本土へのテロ攻撃の可能性を掴んでいましたが、具体的にいつ、どのように、などの予測はFBI等との情報共有不足でほとんどできていなかったといいます。
また昔、高度成長期には総合商社をはじめとした日本の大企業の多くが社内にインテリジェンス部門を有し、経営戦略の決定に大きく寄与していたそうです。もちろん、貿易面や為替面でアメリカの過保護を受けていた冷戦期の日本と単純な比較はできませんが、社内外の情報を収集しその価値を最大限引き出す努力は競争優位性を獲得するための必要条件なのでしょう。
最近ではスポーツ分野でも、メジャーリーグのセイバーメトリクスに代表されるようにデータ分析の重要性が増していますが、そこでもTableauをはじめとしたBIツールが用いられることが多いようです。
4.CRM (Customer Relationship Management)
定義:「顧客関係管理」と訳され、個々の顧客ごとにそのニーズを把握し、パーソナライズされた商品・サービスを提供すること。これにより顧客との関係を継続的に構築・改善し、結果として売上や企業価値を向上させる。
プラスアルファ:大量生産・大量消費の時代からポストモダン(多様性)への移行に伴い生まれた概念です。ただし、CRMと聞くと何やら新しくて難しそうな印象を抱きがちかもしれませんが、考え方自体は昔からあります。昭和初期頃まではご近所づきあいの中で商いが営まれていたわけですし、また商店街に代わり主役となった百貨店だって優良顧客に対する優待措置やコンシェルジュサービスの提供などをお家芸としてきました。その後、大型ショッピングモールやeコマースの台頭により客層が不特定多数へと拡大したことで、今までと同じような顧客関係管理を行うにはCRMシステムが必要となってきたわけです。
CRMシステムとして世界的にも日本でも圧倒的なシェアを誇るのはSalesforceですが、他にOracleやSAP、Microsoftなども有名です。日本ではSynergy!やBetrendなどの国産CRMも高いシェアを占めています。
5.SFA (Sales Force Automation)
定義:営業支援を目的としたツールで、「営業支援システム」と呼ばれている。営業を、「勘」「経験」といった精神的・職人的なものから「科学的」「自動的」なものへと改善することを目指す。
具体的には顧客や商談(案件)の管理機能や、営業メンバーの行動管理・サポート、ノウハウや情報の共有などの機能がある。
CRMやBIなどと重複する部分が大きいため、これらと一体化したシステムであることも多い。
プラスアルファ:SFAとCRM、そしてMA (Marketing Automation)、それぞれの相違と関連を簡略化して述べると次の通りです。まずMAを用いてリード(見込み)顧客を開拓する。次いでSFAを用いた効率的な営業により顧客獲得にこぎつける。そして獲得した顧客と継続的な関係を築きクロスセルやアップセルといった顧客単価向上へと繋げるのがCRMとなります。
6.PLM (Product Lifecycle Management)
定義:製品の構想・企画段階から、設計、開発、製造、販売、アフターサービス、さらには廃棄や再資源化までを一貫して管理し、そのライフサイクルを改善していくこと。
プラスアルファ:1950年代に米国国防総省によって開始された構成管理(Configuration Management)がPLMの起源とされています。人命に直結する軍事装備には高度な技術、綿密なメンテナンス、高い安全性、耐久性などが要求されるため、その管理手法を洗練し可視化することが目的でした。構成管理の主目的は製品ライフサイクル全般にわたる“一貫性の保持”ですが、その拡張ともいうべきPLMの主目的はライフサイクルの“改善”となっており、そこが大きな違いと言えます。
7.SCM (Supply Chain Management)
定義:サプライチェーンすなわち、R&Dや原材料の調達から消費者の元に届くまでの一連のプロセスを統合的に見直し、プロセスの全体最適を目指す取り組みのこと。自社のみならず、提携する様々なステークホルダーとの連携が必要となる。
プラスアルファ:SCMは2000年ごろ大きなブームが起きましたがその多くが失敗に終わったと言います。最近になって再びクローズアップされるようになりました。かつての失敗の原因はいろいろありますが、一番大きなところでは効率化・最適化の達成をもって完了するものと勘違いされていた点が挙げられます。SCMとは明確な終わりがあるプロジェクトを指しているのではなく、永続的に改善していくマネジメントのことを指しており、そのためのPDCAサイクルを回す基盤を提供するのがSCMシステムである、と認識しておかなければなりません。
8.ロジスティクス
定義:原料から仕掛品、完成品までのフロー、またその管理を指して用いられ、「物流」と略されることが多い。派生してその効率化・最適化までも含意するようになったため、SCMと意味するところはかなり近くなっている。
またコンサル内の会話では、会議や会食などのためのもろもろの準備を指して「ロジ」と言うこともあります。
プラスアルファ:語源は古代ギリシア語の「logisteuein(管理する)」。もともとは軍事において、戦闘部隊の維持・支援機能全般を意味する用語(「兵站」と訳されます)でしたが、ビジネス分野でも用いられるようになりました。
軍隊におけるロジスティクスも人員・装備等の補給・輸送が確かに中心的要素ですが、整備・修理・医療や補給路の確保任務なども含まれ、つまり適切な資源を適切な場所へ適切な時期に適切な量届けることにより、第一線部隊の戦闘力を最大化することを目的として遂行されるオペレーション全般を指していることとなります。ビジネスにおいてもこのような原義を頭の片隅に置いておくと役に立つかもしれません。
9.SaaS (Software as a Service)
定義:クラウドの一種で、ソフトウェアをインターネットを通じてウェブブラウザから利用できるサービス。対義語は、自社サーバーや端末にソフトウェアをダウンロードして利用するパッケージ製品。
プラスアルファ:今日ではSaaSを全く利用していないという企業は皆無と言ってよいでしょう。GmailのようなWebメールサービスもSaaSの一種です。ちなみに、ソフトウェアのみならずハードウェアも利用できるサービスをIaaS (Infrastructure as a Service)、ハードウェアに加えOSなどの基盤も利用できるサービスをPaaS (Platform as a Service) といいます。
10.ERP (Enterprise Resource Planning)
定義:ヒト、モノ、カネ、情報の4つの経営資源を総合的に管理・改善して成果を最大化するための考え方。実際は、それを実現するためのシステム(ERPパッケージ/ERPクラウド)を指す場合が多い。
部門ごとに異なるシステムを利用していると情報管理や共有も不十分になることが多いが、ERPを導入すればバックオフィスから顧客接点までを単一のシステムで行えるため情報をリアルタイムかつ一元的に管理でき、事業全体が可視化しやすくなる。ただし、ERP導入には現行業務の大規模な見直しが必要となる。
プラスアルファ:米国海軍はシステムをオンプレミスからクラウドへ移行する流れの中で、大規模な投資を行い2021年にERP導入を完了したらしいです(こちら)。企業などの民間組織と比べるとトップダウンかつモノリシックである軍隊や行政機関ではERP導入の障壁が比較的少ないため、ベストプラクティスとして有益な知見が得られるでしょう。
11.SAP
定義:ドイツSAP社の提供するERPソフトウェアであり、数あるERP製品の中でも代表的なものの一つ。業種別に特化していること、各企業の業務に合わせたカスタマイズ性の高さ、モジュールと呼ばれる機能群から取捨選択できることなどが強みと言われている。
プラスアルファ:SAPの読み方ですが、SAP社ホームページには次のように記載されています。「SAP の読み方はよく尋ねられます。文字を個別に発音します (エス・エー・ピー)。一語として発音する「sap(サップ)」ではありません」。サップだと英語では差別表現と受け取られる可能性があるので注意が必要だとか。とはいえ、日本人の間ではサップと呼ばれてしまうことも多いのが実情でしょう。ちなみにSAPのエンジニアを「サッパー」と呼ぶこともありますが、英語でsapperは工兵という意味になります。
12.アーキテクチャ
定義:システムの構成のこと。企業のシステム全体の構造や、各システム間の関係を指す。近年はそれらの設計手法や設計思想のことも指すようになっている。
プラスアルファ:建築分野で「建造物」や「構造」などを指す用語だったものがIT分野でも用いられるようになったものです。特に最近、DXの風潮の中で老朽化したレガシーシステム脱却が大きなムーブメントとなっており、新たなシステムを構築するにあたってアーキテクチャが重要視されています。一枚岩という意味のモノリシックアーキテクチャから、小規模アプリケーションを疎結合に連関させるマイクロサービスアーキテクチャへの移行というのが一つのトレンドとなっています。
13.DX (Digital Transformation)
定義:DXという用語を浸透させたIDC JAPANによる定義は以下の通り。
「企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること 」(「デジタルネイティブ企業への変革」IDC Japan、2017年12月14日)
プラスアルファ:元々はデジタル技術の進歩に伴い社会に起きる変化一般を指す学術用語だったものが、上記の定義以降は経営的文脈で用いられるようになりました。そのため、社会が自然と変化していくことを指すのか、その社会の変化に企業が順応していくことを指すのか、はたまた企業が社会の変化を先導していくことを指すのか、認識が統一できていないのが実情です。
何から始めればよいのか悩みどころですが、まず指標とすべきは経産省の「デジタルガバナンス・コード」、そしてチェックリストとしての「DX推進指標」が適切でしょう。
14.RPA (Robotic Process Automation)
定義:人間が行ってきた業務を機械に代替作業させること。代表的な形式としては人がキーボードとマウスで行っていたルーティーン業務をそのまま機械に覚えさせ実行させるものであるが、加えてルールエンジンやAIなども活用する取り組みも増えている。
プラスアルファ:ゴルフのレッドペナルティーエリアとは別物ですのでおじさんはご注意ください。 UiPath、WinActor、BizRobo!、Automation Anywhereなどが有名です。人的コストの削減や業務の正確性の向上のほか、働き方改革や、少子化による労働力不足解消などを目的としても導入されています。
15.BPR (Business Process Re-Engineering)
定義:事業の効率化のため、組織構造や業務プロセス全般を見直しデザインし直すこと。基本的なフローは現状分析→課題発見→原因分析→解決となるが、アナログ面のみの改善からERPやAI、RPAなどのITシステム導入まで様々な手法がある。
プラスアルファ:BPRは全社的・抜本的な改革であり、経営者が「やるぞ!」と号令を発して行われるプロジェクトです。対して、特定の業務分野やシステムの一部の継続的な改善などはBPM(Business Process Management)と呼んで区別されます。
16.BPO (Business Process Outsourcing)
定義:業務プロセスの一部を一括して外部の専門業者にアウトソーシングすること。通常のアウトソーシングよりも委託する業務の範囲が広い。
メリットとして、コア業務に集中できること、専門業者のノウハウを活用できることなどが挙げられる。
プラスアルファ:BPOは当然現行業務の可視化・整理から始まりますが、それによって課題やボトルネックが見つかるとそれらを改善すべきだと各方面から横槍が入り、いつの間にかBPRにまで風呂敷が広がってしまっていた、なんてのもままある話ですので気を付けましょう。
17.オフショア化
定義:国際的なアウトソーシングのことで、海外の企業に自社の業務を委託すること。人件費の削減や労働力の確保などが主たる目的。
プラスアルファ:かつては途上国や新興国の低賃金労働力を活用することで人件費を削減できることが大きなメリットでしたが、国家間の賃金格差縮小によってあまり旨みがなくなってきたとも言われています。
以前は中国、インドが主なオフショア先でしたが、両国の経済成長に伴いベトナムやフィリピンなど東南アジア諸国にシフトしてきています。特にベトナムは政府がICT教育や日本語教育に力を入れていることもあり群を抜いて人気があります。
18.PMO (Project Management Office)
定義:本来は複数のプロジェクトを一元的に管理しプロジェクト間の調整や各プロジェクトの支援を行う組織のことを指す言葉だが、一つのプロジェクトのマネジメント支援のみを指すこともあり、またその場合組織ではなく個人である場合も多い。
最も重要な役割はプロジェクトマネージャーを支援することに変わりはないが、期待される役割や権限、業務範囲は各企業、各プロジェクトで異なるため、事前に十分確認することが重要である。
プラスアルファ:「プログラム・マネジメント・オフィス」も同じくPMOと略されるため、よく混同されます。「プロジェクト~」の方は上記の通りプロジェクトマネージャーを支援する業務ですが、「プログラム~」の方ではプロジェクトマネージャーは管理対象であり、支援するのは経営レベルのマネジメントとなります。ざっくり言うと、ITコンサルが担当するのが「プロジェクト~」、戦略コンサルが担当するのが「プログラム~」である(ことが多い)と言ってよいでしょう。
19.ITガバナンス
定義:ITシステムのあり方を統治するという意味。コーポレート・ガバナンスから派生した、またその一翼を担う概念。
元々は、各部署が各々の判断でいろんなシステムを導入していたことにより引き起こされた大規模なシステム障害などの教訓から、企業内で利用されているすべてのシステムを適切に監督・統制する重要性が認識され使われるようになった用語。だが、その後幅広い文脈で用いられるようになったため定義は曖昧となった。
経済産業省は以下のように定義している。
「経営陣がステークホルダーのニーズに基づき、組織の価値を高めるために実践する行動であり、情報システムのあるべき姿を示す情報システム戦略の策定及び実現に必要となる組織能力」。
ITガバナンスに焦点を当てたフレームワークとしてCOBIT (control objective for information and related technology)がある。
プラスアルファ:ITガバナンスの例を挙げます。「奥さんに成人向け動画サービスの視聴を制限されてしまった」。「ネットショッピングでいろんなものを買いまくっていたら旦那さんにカードを利用制限されてしまった」。
20.チェンジマネジメント
定義:組織変革、業務改革や大規模システム導入などの重要な変化のタイミングにおいて、それらを成功に導くためのマネジメントのこと。社員ひとりひとりの心理面に焦点を当てたもので、変革の必要性・重要性を浸透させ、合意形成しながら意識レベルから変えていくことで、企業全体の変革を支援する。
プラスアルファ:アメリカ製造業大手GEがデジタル変革に失敗した原因がチェンジマネジメントの不足だったと指摘されるように、かつて大きな成功を収めた企業が変革する際には特にチェンジマネジメントは重要となります。過去の成功体験に固執してしまったり、変革を外部人材に丸投げして現場の声をなおざりにしてしまったり、会社の現状の身の丈に合ったレベルから逸脱した計画を立ててしまったりする可能性が高いからです。
21.ITIL (Information Technology Infrastructure Library)
定義:ITサービスの管理や品質向上のためのノウハウやベストプラクティスを収集・整理した書籍群(ライブラリ)。英国政府が1989年に発表したものが端緒であり、以後数回に渡るアップデートがなされた。ITILの原則やフレームワークはガイドラインとして参照されることが多い。
ITILには認定資格制度があり、保有していればスキル人材として評価される。
プラスアルファ:ITサービスの品質がビジネスの成否に直結するようになってきた中で、品質向上のためのスタンダードが求められるようになり、ITILがまとめられました。事実上の国際標準となっているITILですが、額面通りに自社システムに当てはめる必要はなく、ベースとして参照するもの(ガイドライン)として考えるべきものです。
22.ITアーキテクト
定義:ITシステムの全体像を設計する職種。システムの信頼性・拡張性・汎用性などを統合的に考慮し、最適なアーキテクチャをデザインする。またシステム開発プロセスの効率化・標準化などを担うこともある。広範囲な知識と高度なスキルが必要とされる。
プラスアルファ:ITアーキテクトに求められる役割は様々であるため、IT分野全般のスペシャリストであることが求められます。用語「アーキテクチャ」同様、アーキテクトも「建築家」を意味する建築用語でした。企業の巨大なシステムを設計・構築する建築家でなければならないと考えれば容易な仕事ではないことは想像に難くないでしょう。実際、複数のプログラム言語が書ける、業務分野も分析できる(BA=ビジネスアナリシス/アナリスト)、などといったスキルが期待されることが多いです。ただ見方を変えれば、一部のみを担当するプログラマやSEがその知見・経験を活かせる、一段階上のレベルの職種としても捉えることもできます。
23.RFP (Request for Proposal)
定義:システム導入や業務委託において、発注する企業が要望を記載した提案依頼書。決まった様式はないが、主な記載項目はおおまかな要件、予算、期間など。
その後、受注側(ベンダー)はこれに基づき提案書(プロポーザル)を提示し、発注側は複数企業の提案を精査し委託先を決定する、という流れとなる。
プラスアルファ:似た言葉であるRFI (Request for Information=情報提供依頼書)は、要件を明確化する前段階において幅広く製品やサービスの情報を収集するために作成されるものです。最近の大型案件ではRFI→RFP→提案→選定の手順を踏むことが多くなっています。
24.プロポーザル
定義:提案や提案書、また企画書などを指す。複数企業にRFPを提示し、提案書を提出してもらい発注先を選定する方式を「プロポーザル方式」と呼ぶ。
プラスアルファ:「提案という意味なのだから日本語で言えや」と感じる方もいるかもしれませんが、単なる思いつきや助言のことではなく、周到に練られた計画であるということを強調するために横文字で言って区別されるようになったらしいです。ちなみに結婚の申し入れをプロポーズと言いますが、これは動詞なのである意味和製英語であり、正確にはプロポーザルと呼ぶべきです。勢いやその場のノリでプロポーズしてもそれはプロポーザルではありませんので注意しましょう。
25.アウトプット
定義:成果物。有形のものだけでなく、発言・表現など無形のものも含まれる。またそれらのスキルを指すこともある。コンサルタントの評価指標としてもっとも重視される部分。
分析レポート、報告資料、提案資料などが代表的。
プラスアルファ:「コンサルはアウトプットがすべて」とよく言われますが、これだけ聞くと少し誤解を招くかもしれません。コンサルにとってはインプットも、インプットを分析・考察・加工するプロセスも、アウトプット同様に重要です。ただ日の目を見るのがアウトプットの部分だけであるため、冒頭の格言(?)となるのです。
26.ベンダー
定義:IT業界では、IT製品を販売する業者を指す。その意味するところは幅広く、ハードウェアやソフトウェアのメーカー、その販売代理店、クラウドサービス提供企業、システム開発企業などが主だが、企画・開発~保守・運用まで担うSIerやITコンサルなどもベンダーと呼ばれることがある。
プラスアルファ:アメリカではIT人材の多くがベンダーではなくユーザー企業に属しシステムの内製化が進んでいるためDXが進みやすいのに対し、IT人材がベンダーに属していることが多い日本では、ユーザー企業が特定ベンダーに依存してしまい(=ベンダーロックイン)DXもなかなか進まない、と言われています。コロナ禍によるITベンダーのリストラやAI活用拡大などの影響でIT人材市場もある程度流動化したとも言いますが、未だに大きな課題であることに変わりはないでしょう。
27.M&A (Mergers and Acquisitions)
定義:他の企業を合併や買収により取得すること。広義には、資本提携・業務提携全般までをスコープに入れる場合もある。
具体的な手法は多岐にわたり、また通常は個々の企業にノウハウがなく、動くカネも大きいことなどから、コンサルタントなどの専門家によるサポートが欠かせない。
買い手側の目的は新規事業・新規市場への参入や、有形・無形資産の獲得など。売り手側の目的としては後継者問題の解消、事業の継続・拡大など。
プラスアルファ:思い返すと、Jリーグの横浜フリューゲルスが横浜マリノスに吸収合併された頃(1998年)にはM&Aなんて言葉はまったく使われていなかった気がします。日本では「ハゲタカファンド」のイメージなどもあり悪印象が強かった言葉ですが、最近ではだいぶ浸透しイメージも改善されてきたようです。
28.デューデリジェンス(Due Diligence)
定義:M&Aに際し、買い手企業が事前に実施すべき実態調査のこと。「デューデリ」「DD」等と略される。
対象企業の価値を正確に判断することや、未然にリスクの有無を発見することが目的であるが、Due(義務)とあるように当然のこととして実施すべき責任でもある。
ビジネスデューデリジェンス、財務デューデリジェンス、法務デューデリジェンス、人事デューデリジェンス、ITデューデリジェンス、環境デューデリジェンスなどがある。
プラスアルファ:「デューデリジェンス」という言葉だけ聞いても、知らない人からすればなんのこっちゃ?となるのは当然です。言葉自体は少なくとも15世紀頃からあったのですが、"investigation carried out with due diligence"などのように修飾語として使われていたものが、やがて省略されて単体で意味を持つ言葉となりました 。ちなみに「DD」と聞いて意味深な反応をする人はアイドルオタかミリオタの可能性が高いでしょう(DD=誰でも大好き=アイドルを個人ではなくグループとして推している人の意。DD=駆逐艦(護衛艦))。
29.PMI (Post Merger Integration)
定義:M&A成立後の統合作業全般を指す。経営、組織、業務オペレーション、システム、さらには企業文化や意識等までをも統合していき、M&Aにより生まれるシナジーを最大化することが目的である。
プラスアルファ:M&Aには銀行やファンドなどの金融機関が絡んできますが、金融関連の用語には同じくPMIと略される「購買担当者景気指数」(Purchasing Managers’ Index)もあり、検索するとむしろそっちの方が多く出てきたりします。ということは、M&Aの認知度は上がってきたとはいえその後のPMIの重要性まではまだ十分認識されていないのかもしれません。
30.カニバる
定義:「カニバリゼーション(共食い)が起きる」の略語。自社競合。自社の製品やサービス同士が売上競争になってしまったり、チェーン店が近場の店舗同士で客の取り合いになってしまったりすることを指す。M&Aの際に注意すべき点の一つでもある。
プラスアルファ:我が家にも同じKDDIグループのauひかりとジェイコム両方の営業さんが来て勧誘合戦しているので困っています・・・。
31.ケイパビリティ
定義:個人あるいは組織が有している能力のこと。コンサルタントに対してケイパビリティと言った場合、コンサルとしての能力の高さに加え、そのコンサルがどの業界、どの分野の知識・経験・ノウハウを持っているかを意味する。企業に対してケイパビリティと言った場合は「組織能力」と訳される。企業が全体として有している有形・無形の能力全般を指すため、概念自体理解されにくく、またそれを見出すのにも高いスキルが必要とされる。競合企業も有しているケイパビリティにはあまり重要性がないため、その企業のみが有している固有の強みを指す場合が多い。
プラスアルファ:軍事においてもわりとメジャーな用語です。物理的要素に限定せず人的要素も包含して見積もることを意図している概念で、定義は「ある一連の任務を実施するために、手段や方法を複合的に組み合わせ、一定の条件下で、一定の基準を満たすだけの効果が得られる能力のこと」。具体的な構成要素としては「ドクトリン(Doctrine)、組織(Organization)、訓練(Training)、装備(Materiel)、リーダーシップ(Leadership)、人事(Personnel)、施設(Facility)など」であり、これらの頭文字を取って「DOTMLPF」と呼ばれます(出典)。ご参考までに。
32.ブレイクダウン
定義:細かく分割すること。何らかのタスクや課題が発生した場合に第一に実施すべき出発点である。特に、大量のタスクに埋もれてキャパオーバーになりそうになった際に、何をいつまでに実施しなければならないのか、ということを明確にするために必要となる。
他に、大規模なプロジェクト等を一つ一つのタスクに落とし込む作業のことも指す。
プラスアルファ:ようは「困難は分割せよ」というやつですね。何を切り口として分割するのか、が重要であり、まさにMECE的な思考が求められる部分です。ちなみに英語では「破壊」や「故障」のようなネガティブな意味もありますが、ビジネスの場で正しい文脈の中で使っていれば誤解されることはないでしょう。
33.ファシる
定義:「ファシリテーションする」の略語。会議の場において、参加者の意見を整理・調整して合意形成までもっていくこと。
プラスアルファ:ファシリテーションと、司会や進行との違いは、そこに主体性とビジョンがあるか否かと言えるでしょう。原稿さえあれば誰でもできるのが司会や進行で、議論を導きながら何らかのゴールへと到達させるのがファシリテーションです。何も準備せずに臨めば当然議論は取っ散らかってしまいますが、逆に固めすぎていても予想外の意見に柔軟に対応できなくなってしまいます。
34.サチる
定義:「サチュレーションする」すなわち「飽和する」という意味。「キャパオーバー」に近い。仕事を多数抱え込み処理能力の上限に達してしまっている状態や、市場が飽和状態になり頭打ちになっている状態を指すことが多い。またIT業界では、通信回線の容量限界により通信速度が上限に達している状態を指して使われたりもする。
プラスアルファ:元々はコンサルやビジネスの用語ではなく理系の研究業界で使われていたスラングで、実験等において測定機器の計測可能範囲を超えてしまうことを指していました。最近でも耳にする言葉ではありますが、既におじさん用語になっているという説もあるので、案外年配の人には通じて若い人には通じないかもしれません(統計は取っていないので分かりません)。
■まとめ
今回ご紹介したコンサル用語はほんの一部ですが、定義が不明瞭なまま言葉を発することが絶対に許されない(?)コンサルタントの方々、またそんなコンサルタントと会話することが多いクライアントの方々は押さえておくべきでしょう。
WithConsulで扱う案件ではこれらの用語がよく出てきます。ご紹介した用語のどれか一つにでもピンときましたら、コンサルタントの方も、クライアントの方も、ぜひ本サービスをご活用ください。